最終回

調身(運動療法)

調身も「心身一如」。日光を浴びながら体を動かすだけで、心身の癒やしが始まる。

「心身一如」、この言葉が示すように心が病めば体も衰えますし、体が病めば心も傷つきます。逆に心と体、どちらから癒しても心身すべての癒し、調心・調身につながっていくのです。ただ、私は外科医ですから、即効性のある調身からお勧めしています。

日光を浴びて裸足で大地を踏みしめ、天地に感謝しながら体を動かす、深浅・緩急付けて呼吸する。あるいは森林をのんびり散歩する。それだけで身も心も天地のエネルギーで充たされます。幸福ホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」や臓器活性化に役立つ「メッセージ物質」も増加して心身は快調、病気を遠ざけ、寿命も延びそうですね。調身を極めるには、良質の技法を多く学び、くり返し実行持続することです。かの有名な野球のイチロー選手もくり返し実行持続することの大切さを語っていましたね。

調身は感謝と手当て、そして休養、睡眠をセットで考える。

運動したら、その後が大切です。多くの人は運動しても、体の手入れ、休息の重要性を忘れています。そして、「だるい、疲れた」「足腰が痛い」など不調を嘆くのです。ヨガで、最後に「シャヴァ・アーサナ(屍のポーズ)」を取るのもリラックスと休養のためです。運動後は、疲れた体をいたわり感謝しながら、自分で手足、胸腹部、腰背部、頭頚部辺りまで揉み擦り手当てする、深呼吸、完全休息するなどが重要です。そして六時間くらいはしっかりとした睡眠を取る。これが調身で最も大切な要になります。

脊髄神経と脳神経の活性は最高の調身法。全身の細胞40兆、組織と臓器も蘇る。

整体、ヨガ、気功、太極拳ほか調身に使える技法は数多くあります。セルフヒーリング(自分で自分を癒す)用にもいろんな手技を使いますが、汎用性と有効性を重視して選んだ技法をご紹介します。それは脊髄神経と脳神経、そして自律神経の活性法です。これらの神経ネットワークは全身隅々まで張り巡らされていますから、細胞、組織、臓器を刺激調整できますし、ワーク中には脳の視床下部から幸福ホルモンのオキシトシン、筋肉・骨からマイオカイン(アイシリン)、オステオカルシンなどのメッセージ物質も産生され脳、心肺、肝、膵、腎機能の改善に関与すると言われています。最高の調身法と言っても良いかと思います。

元気な人は「立位で出来る操体法」から始めると良いでしょう。透析中の方、病気がち、あるいは後遺症などで立ち居振る舞いが難しい方々は「ベッドで出来るセルフヒーリング法(土肥式)」を活用してください。

●立位で出来る操体法(土肥法)四種

脊髄神経31対と自律神経の活性法が中心です。肩幅くらいで立ち、4方向に脊椎を動かすと脊髄神経が活性化され、血液、リンパや脳脊髄液の循環、内臓、四肢の機能も向上し、体調不良の改善に繋がります。脊椎や関節に重い疾患を持つ方は避けてください。

(1)セルフハグ・バイブレーション

セルフハグ(自分で自分を抱きしめる)して上下に全身を揺する。

(2)脊椎を左右にねじる

上を向き胸を張り、両手を広げて左右にゆっくり回す。

(3)脊椎の側湾と肩甲骨の上下運動

右手で頭越しに左耳を掴んで体をゆっくり左、右に倒す。左手に変えて同じことを繰り返す。

(4)頸椎、胸椎を後屈(伸展)

肩・肩甲骨を背側に寄せ、胸を拡げ真上を見る。頸椎、胸椎の順に伸展後屈する。

(1)は長め頻回に。(2)(3)(4)は短めに3回くらいでも良いです。ゆっくりと可動範囲ぎりぎりまで頑張ってください。

●ベッドで出来るセルフヒーリング法(土肥法)

脳神経12対と自律神経の活性法です。ベッドに寝て背位をとり、セルフヒーリングして貰います。元気な方は立位で活用してください。脊柱、頸、顎、舌、眼球などを動かす。それにアロマ、音刺激、香辛料、軽い経絡刺激などで「嗅ぐ、見る、聞く、味わう、触れる」の五感刺激を追加するのも良いですね。心身の奥深くまで癒され、脳の活性化、認知症予防などにも適しています。

(1)脊柱揺すり

脚を足首位置で交差、セルフハグして腕・肩を左右、上下に20回ずつ揺する。

(2)頸部、顎を動かす

首や顎を左右、上下に10回ずつ動かす。ガムを嚙むのも認知症予防に良い。

(3)舌の運動

舌先を思い切り左右、上下に5回ずつ突き出す。また、上下の歯列の外内を舌先で5~10回ずつ触れていく。

(4)眼球を動かし廻す

眼球を左右、上下、右・左回転を10回ずつ行う。
※緑内障、白内障術後は避ける。

最後に、耳ひっぱり神門メソッド(本誌2018年秋号で解説)で仕上げると自律神経は更に強化調整され心身の奥深くまで癒されます。首から上の運動は感覚器と脳、下は脊髄に関連します。ベッドに横たわってこれらを刺激すると、脳脊髄神経の活性化、自律神経のバランス調整、免疫防御系の強化につながります。大いに活用し、素晴らしいセルフヒーラー、そしてご家族のためにファミリーヒーラーになってくださると本当にうれしいです。

さて、日々愛飲しているJWティーのご縁で1年間に渡り執筆させていただいた本コラムも、今号で最終回となります。ストレス社会の中、生老病死の四苦を抱えて生きている我々が、本当に幸福に過ごして長寿を迎えるためにはそれなりの戦略と叡智も必要、少しでもお役に立ちたいとの想いから執筆させていただきました。最先端医学では、がんゲノム医療(遺伝子情報に基づくがんの個別化治療の1つ)など驚異的な進歩を遂げていますが、代替医療の世界でも、肥満の方にゲノム診断を行い、その方に適合した健康食品類を選択できる時代です。有用か安全かと模索しながらも先端技術が身近に導入されていく、わくわくハラハラ感を味わっています。今暫し生きながらえ精進し、少しでも貢献できれば無上の喜びです。本当に有り難うございました。皆さまのご健勝、ご多幸を心よりお祈りいたします。

広島大学名誉教授 土肥雪彦先生 原稿執筆

広島大学名誉教授/県立広島病院名誉院長/あかね会老健シェスタ施設長
土肥 雪彦(どひ きよひこ)先生

1960年広島大学医学部卒業。広島大学医学部教授(第2外科学)、広島大学医学部付属病院長、日本肝移植研究会会長、県立広島病院長、中国労災病院長、医療法人あかね会土谷総合病院顧問などを歴任。現在あかね会老健シェスタ施設長。