第6回

調心(心理療法・瞑想法)

ストレス過剰時代を生きるには心身のケアと癒やし(調心)が必須。

何千年もの間、人類は飢饉や疫病、そして戦争で膨大な人達を失ってきました。ですから日々平和で食物があり、健康であれば「有り難い、幸福だ」と神や仏に感謝していたことでしょう。今の日本では戦争もなく飽食の日々、そして平等に先進医療が受けられます。そんな環境にも関わらず、我が国の自殺者(警察庁統計)は2003年にはピークの34427人、だいぶ改善した2018年でも20598人、世界17位の自殺大国です。自殺原因の1位は健康問題、2位が経済・生活問題、3位が家庭問題で、多くのストレス要因が絡んでいます。

強いストレスに晒されると、人は心配や不安、不満と怒り、恐怖などネガティブな感情にさいなまれ「怒りは肝、苦は心、憂いは脾、悲は肺、恐は腎を破る」などと言うように、心身に強い傷跡を残します。弱いストレスでも長く続くと、怒りが爆発したり、逆にうれしいこと、幸せなことが訪れたりしても素直に受け入れられない、かえって不安、うつ状態や不眠症になり、心の扉を閉じてしまいます。ひどい場合は「自分を愛せない、他人を愛せない、他からの愛も受け入れない」、三愛拒絶状態に陥ることもあります。そうなると心療内科や精神神経科を受診し、暗示や催眠など心理療法、抗うつ剤や不眠薬などの薬物治療が必要とされますが、薬物依存症のリスクもあり心配です。

これらに対処する補完療法としては、調心が効果的です。ストレスを受けないよう躱す、受けても平気になれる耐久性を付けるなどの方法もあり、本誌2018年秋号の健康コラムでも自律神経強化調整法「爪揉み」「耳ひっぱり」などを紹介しました。まずは簡単なことから始め、新聞・テレビ・SNS上に溢れている不満や妬み、怒りなどのネガティブ情報を見聞きしないよう心掛けることです。そして友達やいろんな方々と交流する、カラオケやお笑い、あるいは信頼できる方にハグしてもらい大泣きするだけでも、心が晴れますね。

言葉の繰り返しに強く反応する体。「ありがとう」「愛します」と自身に語りかける。

スマートフォンに話し掛ければ何でも検索できる時代。改めて言葉のパワー、言霊を見直してみることも良いのではないでしょうか。体、特に脳は言葉の繰り返しに強く反応します。ハワイの伝統的癒し技法ホ・オポノポノのように「世界に起こることはすべて自分の責任」と考え、何が起こっても「ありがとう、ごめんなさい、許してください、愛しています」と自分に語りかけてみる、或いはご先祖などの神仏、自分の臓器にも感謝し「神さま仏さま、心臓さん、肝臓さんありがとう」などと声を掛ければ、きっと臓器も喜んで頑張ってくれることでしょう。「ありがとう」「愛します」を習慣化する。ウオーキングを一歩するごとに言う。やがて幸福を感じる閾値が下がり、三愛拒絶から三愛受容人間に戻れそうです。言霊で奇跡が起きるかもしれませんね。

調心で重要なツールは「瞑想」、そして「自分と宇宙を知ること」。

調心に役立つ瞑想の類いは、数息法、坐禅やヨガ瞑想法など様々ありますが、難しいと思われがちです。でも“無念無想”などと難しく考えないでご先祖、神仏に感謝し祈る、般若心経を読経するだけでも心が安らぎます。「自分と宇宙を知る」「人は何処から来て、何をして、何処に行くのか」などの課題と共に「宇宙瞑想」するのも良さそうですね。

それは「宇宙と自分が一体である」と実感することです。まずは自分の感情や思い、心に意識を向ける、次いで体を構成している主要生体元素の水素、酸素、炭素、リン、カルシウム、鉄がどのような旅をしてここまで辿り着いたのか、想いを馳せてみましょう。その1つである一番古株の水素元素は、138億年前の宇宙創世記に誕生し最初の星創りに加わり、銀河、太陽、地球などを連綿と巡り、やがて生命の連鎖を経て私たちにたどりついたのですし、酸素、炭素、リン、カルシウム、鉄などはすべて水素元素が高温高圧の中で生み出した子孫で、水素と同じく宇宙をめぐる長旅をしてきたのです。

ですから、体内の水素元素は138億歳、そしてその水素を使って構成されている私たちも138億歳であるとも言えます。宇宙と同じ寿命、いわば永遠不滅です。そのように意識を拡げていけば、私たちは壮大な宇宙の一部、そして宇宙もまた私たちの一部だと感じることでしょう。人は壮大な宇宙から生まれ、また宇宙に還っていく。このように視点を高め、視野も拡大して、瞑想を楽しんでみるだけでも、気持ちが大らかになり少々のストレスぐらいではクヨクヨしなくなることでしょう。お風呂で宇宙瞑想、そしてJWティーで一服する。身も心も深く癒される、至福の一時です。

次回は調身(運動療法):元気な方への「立位で出来る操体法」、ご高齢、病気や後遺症などで立位が難しい方達への「ベッドで出来るセルフケア、セルフヒーリング法(土肥式)」などを紹介し、私のコラムの締めくくりとしたいと思います。

広島大学名誉教授 土肥雪彦先生 原稿執筆

広島大学名誉教授/県立広島病院名誉院長/あかね会老健シェスタ施設長
土肥 雪彦(どひ きよひこ)先生

1960年広島大学医学部卒業。広島大学医学部教授(第2外科学)、広島大学医学部付属病院長、日本肝移植研究会会長、県立広島病院長、中国労災病院長、医療法人あかね会土谷総合病院顧問などを歴任。現在あかね会老健シェスタ施設長。